詩篇2篇 なぜ、諸国民は騒ぎ立つのか ―― 王として立てられる方

詩篇 by 929

詩篇1篇が「幸いなるかな」と静かに始まったのに対し、2篇は世界のざわめきで幕を開けます。「なぜ、諸国民は騒ぎ立ち、もろもろの民はむなしいことを企てるのか」。国々の王が結束し、主とその油注がれた者(メシア)に反逆する ―― その喧噪のただ中に、天の静けさが差し込みます。

いつ詠まれるか

1篇と2篇は、実は一対です。タルムード(ベラホート9b–10a)は、両者を本来ひとつの詩とみなしました。1篇が「幸いなるかな」で始まり、2篇が「幸いなるかな、主に身を避ける者はみな」で閉じる ―― 祈りの書の入口は、この二篇で一つの門をなしています。そして2篇は、古来メシア(救い主)を待ち望む祈りとして読まれてきました。ユダヤの賢者たちも、初期の教会も、そろってこの詩に将来の希望をかけたのです。

背景と作者

この詩がどの歴史的事件を背景に生まれたのか、決め手はありません。青木先生も、きっかけとなる史実は探しても見つからない、と率直に書いています。アッシリアのセナケリブがエルサレムを囲んで失敗した折にイザヤが作ったのでは、という推測が比較的近いが決定的ではない、と(7〜8頁)。むしろこの詩は規模も構想も大きく、どの時代にもぴたりとは収まらない ―― だからこそ、あらゆる時代を貫くメシア預言として読み継がれてきた、というのが先生の見立てです。

注解を通して読む

天に座す方の笑い(1〜6節)

青木先生は「地の王らは自立し」の原語に「自分自身を押し立てる」意を見て、そこに反逆の含みを読みます。それに対して神は「天に座す方」―― 立ち上がる必要すら感じない静けさで、力に余裕のある者の姿だ、と。しかも先生は「主は笑われる」を現在形で訳し直します。過去や未来の話ではなく、今この時、天で笑っておられる、と(8頁)。世界がどれほど猛っても、御座は揺るがない。ここに、1篇の「植えられた木」と同じ安定があります。

「あなたはわたしの子」(7〜9節)

ここはメシアご自身の言葉です。「あなたはわたしの子。きょう、わたしはあなたを生んだ」。青木先生は「きょう」を「永遠の現在」と読み、メシアは永遠に神から出づる子だと解します(8頁)。この一節を、使徒たちはイエスに重ねました ―― 使徒の働き4章、13章33節でパウロが、ヘブル人への手紙1章5節が引用しています。先生が指摘する興味深い事実は、イエス以前のユダヤ教会も、以後のキリスト教会も、そろってこの詩をメシア預言と認めていたこと。あまりに教会がこの論法を用いたため、後代のラビたちは古来のメシア的解釈をむしろ控えるようになったほどだ、と(9頁)。

「子に口づけせよ」(10〜12節)

結びは、王たちへの警告と招きです。青木先生は「子に口づけする」を、その足に口づけすること、すなわち全き降伏を表す、と読みます(8頁)。そして最後の「幸いなるかな、主に身を避ける者はみな」で、詩は1篇と同じ「アシュレー」へ還ってくるのです。

今日の私たちへ ―― 祈りとして

青木先生は、この詩を国家の物語としてだけでなく、一人ひとりへの教訓としても読みます。私たちも神に対して「騒ぎ立ち」、天に座す方を前に「自立」しようとし、神の律法という「軛(くびき)」を嫌う ―― けれどもイエスは「わたしの軛を負って、わたしに学べ」と招かれた。負うべき軛は誰にでもあり、それは重荷を軽くするために与えられる、と先生は書きます(9頁)。この詩を詠むことは、騒ぐ世界と騒ぐ自分の両方を、天の静けさの前に差し出すことなのです。


今日のことば

詩篇 2:7

אֲסַפְּרָה אֶל חֹק יְהוָה אָמַר אֵלַי בְּנִי אַתָּה אֲנִי הַיּוֹם יְלִדְתִּיךָ

アサペラー エル ホク、アドナイ アマール エライ:ベニー アター、アニー ハヨーム イェリドティーハー

わたしは主の定めを告げよう。主はわたしに言われた。「あなたはわたしの子。きょう、わたしはあなたを生んだ」。

詩篇 2:12(結び)

אַשְׁרֵי כָּל־חוֹסֵי בוֹ

アシュレー コル・ホセイ ヴォ

幸いなるかな、主に身を避ける者はみな。


本シリーズ「詩篇を詠む」は、詩篇を一篇ずつ、三つの声を重ねて読み解きます。ユダヤ教の伝統的な注解(ラシー『詩篇注解』、ミドラッシュ・テヒリーム=ショヘル・トヴ、タルムード各所)、日本の聖書学者・青木澄十郎『詩篇の研究 ―― 詩篇の直訳と略解』(基督教文書伝道会、1959年)、そして「いつ、どのように詠まれてきたか」という祈り・典礼の視点です。本文中のページ番号は同書によります。ヘブライ語のカタカナ音写は朗読の目安です。

▶ 詩篇ライブラリー(全150篇の目次)

コメント