ローマへ、そして殉教 ── 走るべき道を走り尽くした(人物篇14)

捕らえられたパウロは、ローマ市民の権利として皇帝に上訴し、ローマへ護送される。その航海も、彼らしく波乱に満ちていた。地中海で嵐に遭い、船は難破し、マルタ島に漂着し、それでもついにローマにたどり着く(使徒27〜28章)。ローマでは軟禁の身となり、やがて——木下の描くとおり——皇帝ネロによるキリスト教徒迫害の中で、殉教する。

【最後の言葉】
その最期を前に、彼が遺したとされる言葉がある。

わたしは、すでに自身を犠牲としてささげている。……わたしは、戦いをりっぱに戦いぬき、走るべき行程を走りつくし、信仰を守りとおした。(Ⅱテモテ4:6〜7)

【木下の視点】残ったもの
木下は、終章で静かに問う。パウロが苦心して育てた教会は、今日まで一つも残っていない。建てた会堂もない。では、あの膨大な労苦と苦闘は、何のためだったのか。——だが、残ったものが一つある。彼が各地の教会に書き送った手紙だ。そしてその手紙の中に、「主イエスにとらえられ、主イエスに従い、主イエスに生きぬいた、一人の人間の素晴らしい姿」がある、と木下は書く。

【私の受け取り】
「走るべき行程を走りつくした」——火は消えうると知り、日々くべ続けた人が(05)、最後にこう言えた。燃やし続けて、燃やしきって、走りきった。彼が残したのは、成功でも組織でもなく、最後まで燃やし通した一つの生涯と、その火から生まれた手紙だった。その手紙を、いま私は読んでいる。

【今日への一行】
火は消えうる。それでも彼は、燃やしきって走りきった。残ったのは、その火から生まれた手紙。

底本:木下順治『パウロ——回心の伝道者』(筑摩書房)X ローマに向って/終章より。使徒27〜28章、Ⅱテモテ4章。聖書引用は口語訳。

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